「折角だからレディアのアドリビトムにも挨拶くらいはしておこうかな」

「そう言えばレディアは軍とは別にギルドを設けているのよね。提携はしているようだけど市民にはギルドの方が親しみやすいもの」

「そこだけはエヴァと違う点ですね。まあレディアは多種族が暮らしてますし三大王都の中でも一番大きな街ですからでしょうか」



翌日、三人でレディアのギルドを訪ねた。


エルグレア以外のギルドは初めてな
少し緊張しつつ、扉を開いた。






「いらっしゃいませ。ご依頼ですか?」



カウンターに座っていたのはシスターの衣装に身を包まれた女性。
穏やかな笑みで三人を迎える。




「初めまして。イクセンから来たアドリビトムでって言います」


が名乗ると女性は先程まで浮かべていた営業用スマイルから、まるで身内に会った様に顔を綻ばせた。


「貴方が…!リーダーから話を聞いて一度会いたいって思っていたの」

「え?オレ此処のリーダーさんとは初めて会うと思うんだけど…」

「そうね、面識は無いわ。だけどこの間ギルド間の会合があってね、イクセンのクラースさんが貴方の事を話したのよ」

「クラースさんが…??」




「“と言ううちのアドリビトムが来たら彼に協力して欲しい”ってね。

 あら、私ったら自己紹介もまだだったわ。アンジュ・セレーナです。よろしくね、君」



「よろしく、アンジュ」



「それでね、うちのリーダーなんだけど…今ちょっと出てるの。だから先にアドリビトムに紹介するわね」

「え、うん」



アンジュは一気に話を進めて行ってしまった。
圧倒されたは取り合えず頷いておく事しか出来なかった。



「…凄い人ですね」

「あっという間にペースに呑まれてしまったわ」






















数分後、アンジュが数名のアドリビトムを連れて戻ってきた。






「丁度良いタイミングで皆揃ってたの。此方が当ギルドの精鋭達です」




アンジュが自己紹介するように促すと、元気良く少年が前に出た。



「俺、カイウス!こっちは弟のルキウスだ!」

カイウスがそう言ってそっくりな少年の腕を引いた。
顔は確かに瓜二つだが、性格は真逆なのがすぐに判る表情の違い。


「兄さん、自分で名乗るから…。初めまして、ルキウスです」



次に金髪の青年が一歩前に出る。


「俺はガイラルディア、まあ気軽にガイって呼んでくれよ」


爽やかな立ち振る舞いにが大人の男だ〜と感心していると、アンジュがこっそりとガイの隣に近づいて行った。



「ひぃぃぃぃ!!!!」


まるで化け物と遭遇したかのように飛びのいたガイ。
呆気に取られていると、少し離れた所に立っていた女性が笑いながら言った。



「そいつ、女性恐怖症らしいわよ。のくせにフェミニストだからからかわれるネタにされるだけどね。
 
 私はヒルダ・ランブリングよ」


次にその隣の女性。


「………ミリッツァだ」


ミリッツァは目線をに合わせず名乗った。
ヒルダはそんな彼女を諌めるように声をかけるが、ミリッツァの態度は変わらない。


そこでは彼女の手をとった。



「!?」

「よろしく、ミリッツァ」










此処はガジュマとヒューマが共存する街。

故に、ハーフと言う種族が生まれてしまうこともある。
ガジュマとヒューマのハーフと言うのは幼い頃はとても体が弱く、育ちにくいと言われている。
だが反面、ハーフの持つ能力はガジュマより高くそれ故希少種とも言われている。

ただ、ガジュマとヒューマは互いに反発し合う者達もいる。

その所為でハーフはどちらにも属せず、肩身の狭い思いをしてきた。




ミリッツァとヒルダはヒューマの外見をしていても、角がある。
それが彼女等がハーフである特徴。


その生まれで、他者を信じる事が出来なくなってしまったこともあり初対面はやはり壁を作ってしまう。








だがはその壁を容易く打ち破ったのだ。





じっと見つめてくるに、戸惑うミリッツァ。
ヒルダは珍しい同族の様子に目を瞬かせている。


「…わ、解ったから……手を…」

「ん」



は素直に手を放す。

もう壁は、無かった。













「僕はキール・ツァイベルだ。よろしく頼む」


最後にと同い年くらいの青年が名乗る。

全員と挨拶を交わした後、しばらく自由行動で情報交換の意味合いも込めて各々が話し込んでいた。


























「すっげえな〜って色んなとこ行ってんだな!」

「思い返してみればそーだな。そのお陰で色んな人と知り合えたし」

「なあっなあっ!今度は俺も連れてってくれよ!俺も外とか見てみてえ」
「もう、兄さん…。でも…確かに外って広いんだよな…。どんなものなんだろう…」



はしゃぐカイウスを諌めながらもルキウスも外の世界に興味があるらしい。
そわそわと落ち着かない様子がそれを物語っている。

やはり、今の世界はそう簡単には外に出ることは出来ないらしい。

大概の場所は封鎖されていたり、通行証を必要としたりと手続きが面倒くさい。
なので空路と、エヴァの大佐と言う後ろ盾は旅をする上でとても役に立っていたのだ。





















「さて、これからのことなんですけど。僕一旦里に戻ろうと思うんです」
「え!?なんかあったのか?」
「いえ、僕ら一応ギルドの情報屋もやっていますからね。集めた情報を報告する義務があるんですよ」


ジェイが離脱すると聞き、は少し肩を落とす。
現メンバーの中では一番長く行動を共にしていただけに愛着が湧いてしまった。
これまでの旅でもジェイに助けられた部分は多く、それが無くなると思えば不安も嘘じゃない。




そんなを励ますかのように、ジェイは笑った。



「何かあったら、頭領代理に渡されたアレを使って下さい。アレは里特製の信号弾なんですよ。それがあれば居場所がすぐ判りますから」



そう言われて思い出したように懐を探ると、しいなに渡された包みが出てきた。
包みの中は細い筒が一本。



「コレを使えばジェイも判るのか?」
「ええ。特殊な粉を混ぜて作ってありますから。何処にいても伝わるように出来てますよ」







簡単な挨拶と話を済ませるとあっさりとジェイは里へと向かって行った。
イクシフォスラーで送るとも言ったのだが、忍だけが使える道があるから良いと断り行ってしまった。

随分とアッサリした別れだったが、もう会えないわけじゃないと頭を振り次の目的地を検討すべく地図を広げた。












「さて、次の目的地は……水のモニュメント。でも流石に二人だけじゃ厳しいね」
「そうね。戦力が減ってしまったのはかなり痛いわ。これからダンジョンに行くのに無謀すぎる」



リフィルと相談していると、会話が聞こえたらしいアンジュが一声かけてきた。




「だったら、此処のギルドから一人連れて行っちゃえば?」



「え?…でも良いの?いつ戻れるか判んないんだけど」
「本人次第だけど、大丈夫よ。むしろこの間の騒動の御礼も兼ねて、ね?」


にっこり笑顔のアンジュにそう言われ、ようやく遠慮していた気持ちが消えた。
リフィルと視線を合わせ、にやっと笑うと先程会ったアドリビトム達の職業を思い返し、パーティバランスが崩れないように誰が良いか相談を始めた。




そして、決定したのは…………………


























「―――と、言うわけで一緒に来て欲しいんだ。駄目かな?」


「へ……?俺で良いのかい?そりゃ旅に出られるなら喜んで行かせて貰うけど」






達が声をかけたのはガイだった。
何故かと言うと、後衛のリフィルに回復に集中してもらうには前衛がもう一人必要だったからだ。

此処のギルドのアドリビトムには前衛は三人。
カイウス・ルキウス・ガイだった。

流石にカイウスだけ連れて行けばルキウスが不公平だろうし、二人も欠員を出すには申し訳ない。
そこでガイに白羽の矢が立ったのだ。






「貴方なら安心してお願い出来るわ。この子も色々と抱える事があるだろうけどやはり同姓の方が相談しやすいこともあるでしょうしね」
「そうか。まあ選んでくれた分の働きはさせてもらうさ」

「じゃあ、ガイ。よろしく!」








「これからどうするんだ?」
「先ず最初は水のモニュメントに行こうと思ってんだ。だからモニュメントに近いこの街に立ち寄って行こうよ」


が地図上の一点を指差し、聞くとリフィルが表情を一瞬曇らせた。


「どうしたんだい?リフィル」
「……いえ、なんでもないわ。そうね…けれど此処へ行くならイクシフォスラーであまり近づかない方が良いわ」
「どゆこと?」



「この街はね、学問が発達した街なの。魔化学、生物学、機工学…様々な分野のね。
 
 だからイクシフォスラーなんて創世紀時代の乗り物は珍しがられて解体されてしまうかもしれないわ」





真剣な顔で言われれば背筋がゾッとする。



「そそそ…それは勘弁願いたいなあ」



頬が引き攣るのを押さえつつも笑みを浮かべていると、後ろからガッと肩を掴れる。
驚いて振り返ると其処にはまるで少年のように瞳を輝かせたガイがいた。



「…ガイ?」

「創世紀時代の乗り物だって!?それに乗るのか!!?」

「う、うん……」

「行こう!!!早く!見せてくれ!!」



「ちょっちょっとま、待ってえぇぇぇ
ぇぇ……」



の腕を引っ掴むとガイは物凄い勢いで駆け出していった。
その姿はあっという間に見えなくなり、リフィルは溜息をつきながら後を追いかけることにした。